林忠彦賞

 

 

第24回 中藤毅彦  「STREET RAMBLER」

写真集「STREET RAMBLER」
 

中藤 毅彦/写真集「STREET RAMBLER」


 東京で生まれ育った作者は、一貫してストリートスナップを撮り続けてきた。世界各地の都市を訪ねるうちにそれぞれの雰囲気の違いに興味を惹かれ、2001年に初めて東欧の旧社会主義国を訪れてからは、さらに都市の持つ歴史的意味合いにも思いを馳せるようになった。
 「STREET RAMBLER」にはこのような観点から、キューバの首都ハバナに始まり、ニューヨーク、モスクワ、上海、パリ、ベルリン、そして東京と、20世紀、劇的な変化を遂げた各都市の姿が収められている。
 これらの都市についてはまた、過去に多くの写真家が題材とし、優れた作品を残してきた。作者はそれら先達の作品とも向き合い、敬意を払った上で撮影に取り組んだ。街に身を置き、ひたすら歩き、そこで出会った人びとや予期せぬ光景に反応し、様々な角度からシャッターを押し、風景とそこに生きる人びとを新しい感覚で捉えてきた。
 さらに、卓越した技術で表現された、粗い粒子と白黒のハイコントラストの画面は、作品のテーマとなる「都市」の姿を、より生き生きと見る者の眼に訴えかけている。ドキュメンタリーでもアートだけでもない、そうした魅力にあふれた作品である。

中藤 毅彦(なかふじ たけひこ)

中藤 毅彦ホームページ>>作者公式ホームページ



中藤 毅彦(なかふじ たけひこ)

 

委員長 細江英公(ほそえ えいこう)

 林忠彦賞は、たくさんある写真賞の中でもレベルが高いと思います。応募される作品はあくまでも作品本位で、他のコンテストにはない自由な雰囲気があります。選考委員としても、少しでも皆さまのお役に立てばという気持ちで選考しています。
 林忠彦賞の最終候補に入ると、これがご自分の写真歴に加わります。これはとても重要なことで、写真が好きというだけではなく、もっとご自身のレベルアップを目指す上で、この記録の意味が深まります。林忠彦賞は作品本位で日本全国の方々が応募できますから、大いに応募してもらいたいと思います。主催者の周南市の方々、選考委員を担当している私たち選考委員、市民のみなさんも、大変期待を持っております。
 林忠彦賞という事業を地方市のレベルでやるのは、予算や時間の面から大変なことだと思いますが、非常に価値のあることです。意欲のある写真家の皆さま方は、ぜひこの賞を目標に、優れた作品を応募してください。
 林忠彦賞に選ばれた中藤毅彦さんの作品「STREET RAMBLER」は、ニューヨークやパリ、上海、東京などを撮影しています。
 ニューヨークと言えば、世界中の写真家がニューヨークを主題に撮影しています。古いところでは19世紀、20世紀初めくらいからで、一番有名なのは1950年代、ウィリアム・クラインという写真家の「ニューヨーク」という写真集でしょう。フィルムの粒子をわざと荒らした感じで、朝から夜まで静かになることはないと言われるニューヨークの喧騒を表現しています。当時の若い日本の写真家たちも、ウィリアム・クラインの写真に随分影響を受けて、そういうものを作りました。僕なんかもそうで、あえて写真の方向を粒子の荒れたような感じにする。画面よりもフィルムの粒子にピントを合わせて引き伸ばしをするという技法で、それで写真が荒々しく見える。粒子にピントを合わせますから、大きく伸ばしたときでも鮮やかに見えるんですね。白と黒のコントラストがありながら粒子が粗いというのは、平和な時代というより荒々しい時代を表現する、そういう効果があります。
 そういうことを僕は体験していますので、中藤さんのような粒子を荒らしたような写真が出てきたりすると懐かしさが込み上げてきます。ニューヨークや東京のような大都会は、そういう粒子を荒らした写真を作ることはまだまだ有効だと思うんですね。
 モノクロ写真の特徴として、白と黒のコントラストをつけることも、暗室の中で自分の好きなようにできます。写真の面白さは撮影だけではないんですね。撮影したフィルムをどのように処理するか、これも重要な表現の要素です。ですからできるだけ自分で現像して、その方法を色々と覚える。ただ普通に現像するのではなく、例えば現像液の温度を上げてサッと現像するとか、色々なことを暗室の中でやることができます。現像で自分の好きなように持っていくというのも写真表現の一部ですから、他人やDPE屋さんにお願いするのではなく、できれば自分でやる。それも色々テストして自分の好きな調子を得るとか、様々なことができます。そうすると表現の幅が広がりますね。これで写真が何倍も面白くなります。かなりのベテランの人はそれを全部自分でやっていますから。これはとても大事なことだと思います。
 今回応募された作品を見ますと、上位にいる人たちは、大体において自分で処理をしている人が多いように感じます。カラーの場合には、またちょっと複雑な処理をしなければいけないので自分でやる人は少ないですが、応募作品の多くはモノクロですから、自分で処理をするということに思い切って飛び込んでみる。全部写真屋さんにやってもらうのではなく自分でやる。そういう勉強をすることでモノクロの写真表現の幅が広がります。とても重要なことですし、もうひとつはそれが面白いんです。面白いから止められなくなります。自分で印画紙の引き伸ばし処理をするようになると、写真の面白さが2倍3倍に膨れ上がるということです。

 

 

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